
最終更新:2026年11月6日
採用の選考にAIを使うこと自体は、アメリカで一律に禁止されているわけではありません。ただし、ニューヨーク市・カリフォルニア州・イリノイ州ではすでにルールが施行されており、該当する場合は候補者への通知、第三者によるバイアス監査、記録の保持といった対応が必要になります。連邦レベルで採用AIをまとめて規制する法律はない一方、公民権法第7編やADAといった既存の差別禁止法は従来どおり適用されます。
本記事では、2026年11月時点で公開されている情報をもとに、アメリカで採用にAIを使う際に確認すべきルールを整理し、日系企業で特に見落とされやすい点と、社内で先に進めておける4つの確認をまとめます。
この記事でわかること
- ニューヨーク市・カリフォルニア州・イリノイ州・コロラド州それぞれの内容と時期
- 「AIを導入した覚えはない」企業でも対象になりうる4つの場面
- 弁護士に相談する前に社内でそろえておく4つの確認と、ツール提供会社への質問5項目
Table of Contents
1. アメリカの採用AIに関するルールは、今どうなっているのか
採用AIを包括的に規制する連邦法はありません。ルールは州と市の単位で作られており、内容も施行時期もそろっていません。2026年11月時点で、日系企業の拠点が多い地域を中心に整理すると次のようになります。

ニューヨーク市:最も具体的な要求がある
Local Law 144は、自動化された採用判断ツール(AEDT)を使う雇用主と職業紹介事業者に対し、使用から1年以内のバイアス監査を受け、その結果の概要を公開し、候補者や従業員へ通知することを求めています。市の説明資料では、通知はツール使用の10営業日前までに行う必要があるとされています。市の消費者・労働者保護局(DCWP)は2023年7月5日から執行を開始しています。
カリフォルニア州:2025年10月1日から規則が施行
州公民権局(Civil Rights Department)の雇用規則が改正され、2025年10月1日に施行されました。自動意思決定システムを使った選考にも、州の差別禁止規定が及ぶことを明確にする内容です。日系企業の米国拠点が集中する州であり、日本本社が導入したツールを現地の選考で使っている場合も対象になりえます。
イリノイ州:施行済みだが、細則が未確定
HB 3773は州人権法を改正し、2026年1月1日に施行されました。採用判断でAIを差別的に用いることを禁止し、AIを使う場合の通知を求める内容です。ただし通知の具体的な要件は州人権局(IDHR)の規則に委ねられており、その規則は2026年5月に提案された後に撤回され、同年9月末時点で再提出されていません。つまり、義務は発生しているのに細部が固まっていない状態です。この状況では、通知を出さない判断より、出す前提で様式を用意しておくほうが安全側に倒せます。
コロラド州:2027年1月1日から
2024年に成立したAI法(SB 24-205)は施行前に廃止され、2026年5月14日に署名された新法(SB 26-189)に置き換わりました。義務の開始は2027年1月1日です。旧法にあったリスク管理計画や影響評価といった要求は縮小されており、「以前読んだ解説のまま準備を進める」と実態と合わなくなります。
連邦:包括法はないが、既存法は適用される
採用AIを正面から規制する連邦法はありません。ただし公民権法第7編やADAなどは従来どおり適用され、意図がなくても結果として特定の属性に不利が生じれば問われうる点は変わりません。「州法の対象外だから何もしなくてよい」とはなりません。
2. 「うちはAIを使っていない」は本当か
ルールの対象かどうかを判断する前に、多くの企業がつまずくのがこの点です。AIツールを導入した覚えがなくても、選考の一部がすでに自動で処理されていることがあります。

このシリーズの①〜⑤では、ChatGPTやClaudeを使って書類選考や面接設計を効率化する手順を紹介してきました。担当者が個人のアカウントで応募書類を評価させている場合も、「選考に使っている」ことに変わりはありません。棚卸しの対象から外さないでください。
3. 日系企業で特に見落とされやすい3点
日本本社と米国拠点で決裁と実務が分かれている構造そのものが、確認の抜けを生みます。

特に二つ目の「複数州に拠点がある」場合は注意が必要です。州ごとに個別対応すると、担当者の交代や拠点の増減のたびに抜けが生じます。実務上は、該当する中で最も要求の多い州に合わせて一つの手順にまとめるほうが、維持しやすくなります。
4. 今やるべき4つの確認
法令の適用判断は弁護士の領域ですが、その前に社内でそろえておけることがあります。棚卸し表を持って相談に行くかどうかで、必要な時間も費用も変わります。

ステップ1:使っているツールを棚卸しする
選考の工程ごとに、使っているツールと「何を自動で判断しているか」を1行ずつ書き出します。求人媒体、ATS、生成AI、スプレッドシートのマクロまで含めてください。この表がないと、以降の判断がすべて推測になります。
ステップ2:該当する州・市を特定する
勤務地だけでなく、候補者がどこから応募しているかも確認します。リモート勤務の募集では、想定していなかった州の候補者が含まれることがあります。
ステップ3:通知と記録の様式を決める
「誰が、いつ、何語で」通知するかを決め、文面を用意します。候補者が読める言語で届かなければ通知の意味がありません。あわせて、選考の判断記録をどこに残すかも決めます。③で紹介した評価シートと面接記録の様式は、そのまま記録の土台になります。
ステップ4:弁護士に確認する
ステップ1〜3を持参して、自社に適用される義務を確認します。この工程は省略できません。本記事を含め、一般的な解説記事は自社への適用可否を判断する材料にはなりません。
5. ツール提供会社へ確認する5項目
「当社のツールは法令に対応済みです」という回答だけでは、雇用主側の義務が果たされたことにはなりません。通知を出す義務も、記録を残す義務も、雇用主に残ります。

特に三つ目の「監査は独立した第三者が行ったか」は確認してください。提供会社自身による点検では要件を満たさない場合があります。
6. 自社で回すか、任せるか
①〜⑤で紹介した手順は、追加のツール費用をかけずに採用業務を効率化できます。一方で、ここまで見てきたとおり、仕組みを作ることより、ルールの変更を追いながら運用を止めずに維持することのほうが負担になります。

イリノイ州のように、義務は発生しているのに細則が確定していない状態は今後も起こります。採用担当者が1〜2名で、採用業務そのものと兼務している体制では、この追跡を続けること自体が現実的でなくなります。
7. よくある質問
Q. ChatGPTで応募書類を要約させるだけでも対象になりますか
A. 要約だけで判断に使っていない場合と、スコア付けや絞り込みに使っている場合とでは意味が異なります。ただし「要約を読んで合否を決めている」なら、実質的に選考判断に使っていることになります。線引きは自社の運用実態によるため、棚卸し表をもとに弁護士へご確認ください。
Q. 日本本社が契約したツールなら、米国拠点は対象外ですか
A. 対象外にはなりません。ルールが適用されるのは、原則としてそのツールを使って米国で採用判断を行う雇用主です。契約の主体が日本側であっても、米国拠点の選考で使っていれば確認が必要です。
Q. 州法の対象地域に拠点がなければ、何もしなくてよいですか
A. 州法の対象でなくても、公民権法第7編やADAといった連邦の差別禁止法は適用されます。また候補者がどこから応募しているかによって、想定外の州が関係することもあります。
Q. 通知はいつ、どのように出せばよいですか
A. 管轄によって異なります。ニューヨーク市では、市の説明資料でツール使用の10営業日前までとされています。イリノイ州は通知を求めていますが、具体的な要件を定める規則が2026年9月末時点で確定していません。最新の状況は弁護士にご確認ください。
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日本語で相談でき、米国の採用実務を前提に話が進むこと。これが、本社と現地で決裁と実務が分かれている企業にとっての違いになります。なお、自社に適用される法令の確認と最終判断は、どの体制を選んでも雇用主の責任として残ります。その前提のうえで、運用の負担を減らす方法をご提案します。
本記事について
2026年11月6日時点で公開されている情報をもとに整理した一般的な解説であり、法的助言ではありません。法令・規則は変更されます。自社に適用される内容は、必ず米国の弁護士にご確認ください。
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